汎用OPアンプを用いた安定化回路

単電源の汎用OPアンプ LM358Nを誤差増幅器に用いた低雑音でロードレギュレーションに優れた直流安定化回路です。以下、実際に製作した回路の回路図です。

 

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LM358N使用 低雑音直列型安定化回路

 

LM358Nは入手の容易な安価な汎用のOPアンプですが、これを誤差増幅器に用いることで、良好なロードレギュレーション、低雑音を実現できます。特別なOPアンプでなくても充分です。誤差増幅器トランジスタを用いたものよりはるかに優秀です。

 

Tr3の放熱がしっかりしていれば連続で1~1.5 A程度の電流を出力することができます。出力電圧はVRを調節することにより可変です。

 

Tr1はJFETによる定電流源です。ICがあまり大きな電流を吸い込めないので、Dランクの2SK2881を使用しています。Tr3を直接制御するには少し厳しいので、Tr2とTr3をダーリントン接続しています。

 

D3は基準電圧を与えるツェナーダイオードです。D3に電流を供給するR2がないと正常に動作しません(R2を省略すると実際にうまく動きませんでした)。

 

C3はより雑音を低減するために出力に含まれる雑音や交流分をしっかりICの反転入力端子に戻すためのコンデンサです。

 

この回路で実際に500 mA程度出力しても電圧の変化は10 mVあるかどうかでした。非常に出力インピーダンスは低いです。汎用OPアンプでも思った以上に強力な恩恵を受けることができました。出力をオシロスコープで観測するときれいな直流になっていました。無負荷時に比べて450 mA出力時にはわずかに雑音が増加しましたがそれでもかなり抑えられていました。優秀な直流安定化回路であるといえます。

 

100 mA以下の小さい電流では問題になりませんが、ある程度大きな電流を出力するとTr3の発熱がかなりあります。Tr3にはヒートシンクが必須です。1 A以上を連続で出力するにはTr3の放熱が重要になります。

 

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入力波形(無負荷)

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出力波形(無負荷)

 

 

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入力波形(20 Ω負荷)

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出力波形(20 Ω負荷)

 

音声(オーディオ信号)のサンプリング周波数はいくらであればいいのか

マイクの出力などのアナログ電気信号をデジタルデータとして取り込む手段にPCMがあります。PCMの基礎は他に譲るとしてその際に充分なサンプリング周波数について理屈を考えます。

 

標本化定理ではアナログ信号の最高周波数の2倍のサンプリング周波数でサンプリングすれば理論的には元の信号が復元できるとされています。しかしこれは現実にはA/D変換器と、再現環境のD/A変換器と補間フィルタが完全に理想的な特性の場合のみにいえることで、実際のA/D変換器、D/A変換器および補間フィルタの性能には限界があり、完全に理想的なものは存在しません。

 

補間フィルタについて説明しておきます。A/D変換器でデジタル化されたアナログ信号はD/A変換器で元のアナログ信号に近い階段状の波形のアナログ信号に戻され、その後不要な高い周波数成分を取り除くフィルタを通って元のアナログ信号となります。このフィルタが補間フィルタです。

 

理想的な特性のフィルタを現実につくることが難しいことは多方面でよく知られていることと思います。A/D変換器、D/A変換器についても理想的な特性のものを簡単につくることは困難です。

 

A/D変換器、D/A変換器および補間フィルタが完全に理想的な特性であれば標本化定理の通りです。人間の可聴領域はおよそ20kHzまでとされています。20kHzまでのアナログ信号をデジタル化して再び完全に元に戻すために必要なサンプリング周波数は40kHzとなります。しかし、理想的な特性のデバイスを実現できないために実際には40kHzでサンプリングしたのでは不十分となります。

 

D/A変換の過程において、理論的には幅が無限に小さい振幅変調されたパルスを生成して原信号を復元するのですが、実際には幅が無限に小さいパルスはつくれないので、有限の幅を持つパルスから原信号を復元します。パルスが幅を持つとどうなるかをフーリエ変換を用いて解析すると、元のアナログ信号は高い周波数ほど(サンプリング周波数の1/2に近づくほど)減衰することがわかります。この現象をアパーチャ効果とよびます。

 

20kHzのアナログ信号を40kHzを超えるサンプリング周波数でサンプリングすることをオーバーサンプリングといいますが、充分高いサンプリング周波数でオーバーサンプリングすることはアパーチャ効果への有効な対策となります。理屈の上ではオーバーサンプリングによる悪影響はなく、むしろ望ましい効果のみが得られます。

 

実際の一般的なA/D変換器は周波数特性がガウシアン特性であることが多いようです。以下、A/D変換器はガウシアン特性として話を進めます。この場合、周波数帯域幅が20kHzであれば20kHzでは3dBの減衰があります。元の信号において3~4%程度の減衰までは無視するとするなら、その場合の帯域幅は20kHzの1/3の周波数となります。

 

以上より、20kHzまでを忠実に復元するのに必要な帯域幅は60kHzとなります。これは帯域幅でサンプリング周波数ではありません。60kHzを忠実に再現できるサンプリング周波数が目的のサンプリング周波数ということになります。標本化定理の通りなら120kHzとなりますが前述の通りこれでは不十分です。

 

A/D変換器、D/A変換器および補間フィルタが理想的な特性でない現実のものであるときには、様々な多くの実際のデバイスアナログ信号を忠実にデジタル化して再び復元するためには、サンプリング周波数は帯域幅の4倍以上あればよいとされることが多いようです。すなわち

 

20kHzまでのアナログ信号を忠実にデジタル化して再び復元するには

3×20kHz×4=240kHz

サンプリング周波数は240kHz以上であればよいことになります。

 

廉価なオーディオインターフェイスのほとんどがサンプリング周波数は192kHz以下までであることを考慮するとかなり高い数値です。実際には96kHzと192kHzでサンプリングした音源を聴き分けるのもなかなか難しいことです。聴覚的にはオーバースペックな感じもしますが信号処理の観点からは以上のような結論となります。

 

20kHzの正弦波を240kHzでサンプリングすると、1周期あたり12回サンプリングすることになります。元の正弦波を正確に復元するのにまずます十分といえそうです。D/A変換器と補間フィルタが少々ひどい特性であってもほぼ元通りの正弦波を復元するのに十分といえるでしょう。

 

96kHzサンプリングだと8kHzまでの信号は正確に再現されることが期待できるわけです。聴覚上重要な情報は8kHz以下に含まれていると判断するなら96kHzサンプリングでも現実の場合に充分となります。参考までに、アナログ電話の音声帯域は0.3~3.4kHzです。

 

なお、アパーチャ効果を改善する方法にはオーバーサンプリングの他にイコライゼーションフィルタを用いる方法があります。

 

高速なA/D変換器は高価ですし、データも大きくなります。そのあたりは忠実性とのトレードオフになります。

 

なお、PCMでは量子化とそれに伴う量子化雑音も重要ですが、今回は標本化のみの話とします。

UHF 430MHz帯(70 cmバンド)ノンラジアルモービルホイップアンテナのSWR

UHF 430MHz帯のモービルホイップアンテナはノンラジアルでアース不要のものが市販されています。そもそもアンテナにアースやラジアルがなぜ必要なのか、ノンラジアルでもSWRが低いのはどういうことかを考察して、430MHz帯のノンラジアルモービルホイップのSWRを下げるにはどうすればいいか論じます。

 

ホイップアンテナは不平衡アンテナに分類されます。ダイポールアンテナは平衡アンテナです。平衡アンテナであるダイポールアンテナは左右(上下)のエレメントにそれぞれ位相が逆の電圧(電流)で給電します。これを平衡給電といいます。左右のエレメントが逆の電圧を持ち、アンテナ全体で左から右、右から左と電流が流れます。これにより空間に電波としてエネルギーを送出します。

不平衡アンテナであるホイップアンテナは、進行波のみがアンテナに流れる場合、エレメントが電圧を持ちますが、電圧を持つというときには何に対して電圧を持つのかということをいわないと意味を成しません。ホイップアンテナのエレメントは

同軸ケーブルの外部導体の電位=アンテナ基台の電位=アースの電位

に対して電圧を持ちます。すなわち、アースの電位が0になるということです。上のイコールは同軸ケーブルとアンテナ基台がきちんと接続されていて、かつきちんとアースが取れているときのみ成り立ちます。

アンテナ基台がきちんとアースされていないと、アンテナの持つ特性によってアンテナ基台に電位が生じます。すなわち同軸ケーブルの外部導体に電位が生じるということで、同軸ケーブルの外部導体が内部導体に対して電圧を持ってしまいます。外部導体が電圧を持つと、もともと外部導体が電圧の基準だったわけですからそれに応じて内部導体が電圧を持つことになります。これは進行波のみのときにはなかったもの、すなわち反射波になってしまいます。ですから、アンテナ基台(同軸ケーブルの外部導体)の電位は0で一定でないとSWRが大きくなります。そのため、アンテナ基台のアースを取って同軸ケーブルの外部導体の電位を0に保ち、反射波を抑えることでSWRが低くなります。

これがアンテナのアースを取る理由です。

 

同軸ケーブルの外部導体の電位が0に保たれればいいということを利用したのがラジアルです。ラジアルは互いに同軸ケーブルの外部導体に流れる電流を打ち消しあうように作用します。電流がキャンセルされるので電圧もキャンセルされます。

以上のことから、アンテナは適切にアースするかラジアルを取り付けないとSWRが上がります。

 

ラジアルの長さは電波の波長によって決まります。理屈の上では1/4波長になります。HFであれば波長は10 m以上になるので(アースを取らないのであれば)ラジアルを省略できません。ところで、周波数が高くなると波長は短くなります。HFは3~30MHzですが、UHFの430MHz帯では波長は1/10以下、70 cm以下になります。ラジアルの長さもそれに伴ってかなり短くて良いことになります。そんなに短くていいのならなくてもいいのではないか、というのがノンラジアルホイップの発想だと思います。ラジアルなしでもSWRが下がるように調整されたアンテナがノンラジアルホイップです。周波数が高い(波長が短い)からできるテクニックといえるでしょう。

 

では、ノンラジアルのモービルホイップは本当にアースを取らなくてもいいのか、ですが、上記をお読みになられたのであれば、SWRを下げたければアースを取ったほうが良いとおわかりでしょう。実際、きちんとアースを取れればSWRが下がることは多いです。

UHF 430MHz帯は周波数が高いので容量結合のインピーダンスが低くなります。ですので、金属の塗装面の上にアンテナ基台を置いてもアースは取れます。塗装を剥がして金属面どうしを直接接触させなくても容量結合で充分アースになります。

それより、HFなどの場合よりも誘導性リアクタンスによるインピーダンスを下げることが重要になります。

アース線を使うような場合は

・なるべく短くする

・なるべく太くする

・複数本で接地する

ことが大事になります。

一般的な接地抵抗を下げることに気をつけるのに加えて上記の配慮が重要になります。長いアース線で接地してもあまり意味はありません。

車のボディなどをアースにする場合はなるべくインピーダンスが低くなる位置で取るようにします。これには測定器(SWR計やアンテナアナライザなど)と実際にいろいろと試してみることが必要になります。

 

ラジアルを取り付けてもよいではないかというのも道理はあって、うまくやればSWRは下がります。ところが、ラジアルは長さ以外にも、本数、角度、位置などいろいろな要素の影響を大きく受けます。そのため、ラジアルでSWRを下げるには地道な調整が必要です。

 

最近は測定器も安いものが手に入るようになってきましたが、「どうも測定値が信用できない」ということがあると思います。

正しく測定するというのは大前提ですが、その前に意外と大事なのが、測定前の測定器の較正です。測定器は測定前に正しく較正をしないと測定値が信用できません。

最近はnanoVNAをアンテナアナライザとして使う方もいると思います。nanoVNAに付属のケーブルでは430MHz帯は正しく較正や測定はできません。

nanoVNAを430MHz帯で使うには、較正や測定には素性の知れた同軸ケーブルでなるべく短いものを用いる必要があります。ダミーロードも50Ωの純抵抗(ちゃんと較正するには2つ必要)が理想です。もちろんコネクタも50Ωのものを使用します。そうでないと測定したSWRが信用できないということになります(付属のケーブルは結構ひどい)。

SWR計を使う場合、送信出力5W以下ではSWRが低めに出るなど正確に測れないことがあります。SWR計の特性の非線形性のためです。送信出力は20Wや50Wなど、SWR計が線形領域で動作する十分な出力が必要です(もちろん大きすぎてもだめ)。当たり前ですが、SWR計も測定前に較正を行わないといけません。

正しく較正をして正しく測定しないと信頼できるSWRは得られません。

 

ノンラジアルのモービルホイップアンテナのSWRは

ノンラジアルアンテナでもアースやラジアルで変化する

・正しく測定しないと信用できない

この2点を原則として押さえておかないと話がかみ合いません。実際の調整もうまくいきません。

水晶振動子を発振させる(正弦波発振回路)

水晶振動子はその直列共振周波数と並列共振周波数の間の非常に狭い範囲で誘導性リアクタンスとなり(Qが極めて大きい)、負荷容量と負性抵抗を接続することで安定して発振させることができます。水晶振動子は自由振動をするので正弦波を得ることができるはずです。実際に発振させて出力を取り出せる回路を製作しました。

 

負性抵抗としてはトランジスタの増幅回路を利用します。発振の振幅などは水晶振動子の特性や回路の構成や素子の特性によるので、実際のところ動かしてみるまでわからないところはあります。

 

今回は3.579545MHzの水晶振動子を使います。水晶振動子のデータシートによると負荷容量は20pFなので、20pF程度のセラミックコンデンサを並列に接続します。

 

製作した回路の回路図を示します。

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3.579MHz 水晶発振回路

動作確認はオシロスコープで行いました。実際の発振周波数はオシロスコープの周波数計によると3.57946MHzです。誤差はおよそ24ppmとなります。周波数、振幅ともに非常に安定しています。

 

回路は少し大きめのユニバーサル基板にゆったりと実装しましたがきちんと動きました。一応、高周波回路なのでコンパクトに実装するに越したことはないです。

 

安定度の点からしてもバイアス回路は電流帰還バイアス回路一択です。直列に接続されたC3とC4が負荷容量です。C3とC4の比で発振波形や発振の振幅が変化します。C3/C4が大きいほど振幅は小さくなり綺麗な正弦波となるはずなのですが(大きすぎると発振しない)、発振回路(Tr1のエミッタ)の振幅は大きく、少し歪んでいます。このあたりは水晶振動子や回路の素子の特性などに左右されるので、実際のところは動かしてみるまでわかりません。

 

使用したトランジスタ(2SC2458)は高周波用ではありませんが、この程度の周波数なら十分です。Tr2は緩衝増幅器です。Tr1から直接出力を取り出すと接続する負荷によって発振状態が影響を受けてしまいます。そのためエミッタフォロワの緩衝増幅器を設けています。出力インピーダンスを低くする効果もあります。C3/C4の大きさおよびC3とC4の合成容量を適切に設定することと、出力は緩衝増幅器を介して取り出すという配慮が大切です。

 

トランジスタに流すコレクタ電流によっても周波数特性は変化します。少々多めに流したほうが高い周波数まで良好ですが、あまり多く流しても無駄です。

 

C1, C2は電源のデカップリングコンデンサです。回路の安定動作のために必要です。電源は9Vの三端子レギュレーターで安定化したものを使用しています。

 

この回路は小電力の発振回路ですが、高い周波数で発振する(高調波も発生する)ので電源にフィルタを入れたほうが良いです。手持ちのインダクタとコンデンサで以下のような簡単なフィルタを製作して電源に挿入しました。

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LCフィルタ

0.1μFのセラミックコンデンサは周波数特性もよく、使う場面も多いので余分に用意しておくと便利です。使用した4.7μHのインダクタは最大620mAまで電流を流せるので今回の回路には十分です。加えて電源ラインに流れるコモンモード電流にも配慮するとより安心です。

 

完全に綺麗な正弦波を得るのは実は少し難しかったりしますが、水晶振動子を使うと非常に安定して発振する回路を作ることができます。

小電力リニアレギュレータ回路の製作

ギターのエフェクターをスイッチングACアダプターで使っているとノイズがのることがありました。そこでローノイズ電源が欲しいという動機でリニアレギュレータを組むことにしました。あえて三端子レギュレータは使わずディスクリートで製作してみようというのが今回の試みです。

 

市販のユニバーサル基板に実装したいというのと入手が容易な部品を使いたいので、回路は複雑すぎずかつ必要な性能は確保するという方針で設計しました。

入力は入手が容易かつ安価で小型なスイッチングACアダプターを使用し、出力はギターのエフェクターの電源という用途を見据えて電圧は9Vとし、電流は300mAくらい出せればOKです。

 

実際に設計した回路です。

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出力9V程度のシリーズレギュレータ

入力は部品と一緒に購入した15V 0.8A出力のスイッチングACアダプターです。

18Vのアダプターなどでもほぼそのまま動作するはずです。

分圧用の抵抗に半固定抵抗を用いて出力電圧を9Vに調整します。

 

設計した回路はシリーズレギュレータ(直列制御型安定化回路)です。

出力の電圧が下がるとTr2のベース電流が減少し、Tr1のベース電流が増加して出力電流を増加させます。出力の電圧が上がると逆の動作をして電圧を安定化させます。

Tr1は電流制御用のパワートランジスタです。TTD1415Bはダーリントントランジスタで直流電流増幅率が大きく便利です。放熱器は小型のものを取り付けました。コレクタ損失は入力を15V、出力を9V 300mAとすると1.8Wとなり定格内におさまります。

C1, C2は回路の電源のバイパスコンデンサと入力の交流分に対してのコンデンサです。Tr1はエミッタフォロワを形成するので入れておくと安心です。

C3, C4がポイントで出力の交流分に対して帰還をかけるためのコンデンサです。回路はシンプルなままリプルやノイズの抑圧をなるべく大きくするために入れました。

Dzは基準電圧を得るためのツェナーダイオードです。2Vや3Vなどのものでも分圧抵抗の抵抗値次第で使えますが、ここでは6.2Vのツェナーダイオードを使用しています。定格は500mWで問題ありません。R3はツェナーダイオードに充分な電流を流すために入れてあります。今回はうまい具合に回路全体で抵抗は1.2kΩの一種類と半固定抵抗1個だけで構成できました。抵抗は1/4W抵抗で事足ります。

Tr2低周波小信号用のポピュラーなNPNトランジスタ、2SC2458です。定格上はコレクタ電流が150mA, コレクタ損失が200mWなので充分です。

コンデンサはC4などは少し無駄に大きいですが、これも回路全体で種類が少なく済むように100μFとしました。コンデンサの耐圧は100μFの電解コンデンサが35V, 0.1μFのセラミックコンデンサが50Vのものを選びました。

 

設計は机上で行い、後日、実際に製作しました。

20Ωのセメント抵抗を負荷にして450mAの電流を流したところ、電圧の変動は0.07Vの低下でした。これよりおおまかに出力インピーダンスは0.2Ω以下程度と実用上充分低いと評価できます。

肝心の実際に使ってみてのギターのエフェクターのノイズですが、9VのACアダプターを直接使っていたときに気になっていた不快なノイズは消えました。当初の目的は達成できました。

 

測定機器があれば三端子レギュレータなどとの比較とかもやってみたいですが、それはもしまた機会があれば。

電波航法(Radio navigation)概説

船舶や航空機が航行中にその自位置を知り、出発地から目的地までの航行を電波により導くシステムが電波航法(Radio navigation)です。電波航法には地上系と衛星系、船舶向けや航空機向けがあります。広義にはレーダーを含めます。船舶や航空機の安全および効率的な運航に非常に重要で不可欠です。以下、概説していきます。

 

・地上無線航法装置

陸上に設置した無線設備の電波を利用する電波航法システムです。船舶・航空機ともに利用されますが、いくつかのシステムは近年廃止されつつあります。

ロランC

長波帯(周波数100kHz程度)の電波を用いた双曲線航法システムです。双曲線航法とは「ふたつの送信局から同時に発射されるパルス信号の到達時間差が一定となる点の軌跡は送信局を焦点とする双曲線となる」というもので、ロランCは精度を高めるためにそれに位相の整合を行ったものです。送信局からの利用可能な距離は昼間より夜間のほうが長くなります。これは夜間は電離層のD層が消失するためです。D層は一般的には100kHz程度の電波には減衰層として働くため、昼間は夜間より電離層波が利用しづらいですが、夜間はE層での電離層波が利用できるため電波の到達距離がより長くなります。

ロランCは波長の長い長波帯の電波を使用するため、送信局のアンテナは非常に巨大です。空中線電力は1500kWなどと大変大きいです。これは電波を長距離届かせるためと長波帯はアンテナ長等の関係上輻射効率が低いためです。

主に船舶で利用されますが、航空機でも利用されてきました。一般に波長の長い電波による電波航法は精度が劣る傾向にあり、GPSなどに比べて精度は低いです。

日本では現在は送信局は廃止されており運用されていません。

 

・NDB(Non-directional Radio Beacon : 無指向性無線標識)

中波帯の電波を用いた無線標識です。モールス符号コールサイン振幅変調して送信しています。ひとつの送信局があれば方向を探知でき、ふたつの送信局の電波により位置がわかります。中波帯の電波は山陰などにも届きますが、マルチパス(複数の経路による電波の伝搬)による位相ずれやフェージング(電波受信レベルの変動)の影響などを受けやすく、波長が長いこともあり精度は必ずしも高くありません。遠くまで電波が届きやすい点はメリットにもなります。

NDBの空中線電力は最低で20W、出力の大きな送信局では数kWになります。

主に航空機で利用されており、機上のADFと呼ばれる装置で方向を探知します。受信側はループアンテナまたはバーアンテナを用います。

国内では後述のVORに置き換えられ、NDBは減少傾向にありますがまだ運用されています。NDBの地上設備の操作には陸上無線技術士の免許が必要です。

 

・VOR(VHF Omni-directional Radio Range : 超短波全方向式無線標識)

超短波(VHF)帯の電波を用いた無線標識です。主に航空機で用いられます。VHFの伝搬特性より通達距離は原則、見通し距離内となります。空中線電力は100W~200Wです。地上の1周が1波長程度の正方形のアルホードループアンテナにより水平偏波の電波を水平面内ほぼ全方向に放射します。磁北から時計回りの自機の方向(heading)を知ることができます。標準VOR(CVOR)とドプラVOR(DVOR)がありますが、現在、DVORが多く用いられています。前述の通り、電波の到達は見通し距離内に限られるため、水平線以遠や山間などでは利用不可となります。

VORの精度は比較的高く、現在も多くが運用され利用されています。

VORの地上設備は陸上無線技術士でなければ操作できません。VORは後述のDMEと併せてVOR/DMEとして施設されることが多いです。

 

・DME(Distance Measuring Equipment : 距離測定装置)

二次レーダー(電波を受けて再放射するレーダー)の一種で、文字通りDMEと自機との距離を測定するシステムです。航空機で利用されます。極超短波(UHF)帯の垂直偏波の電波を使用します。空中線電力は1kW~3kWです。通達距離は見通し距離内です。

航空機上のインタロゲータ(質問器)がDMEに対して質問信号を送信します。それを受けて地上のトランスポンダが50μs後に応答信号を送出します。質問信号送出から応答信号を受信するまでにかかった時間をもとに距離を算出します。精度は高いですが航空機が地上施設に近い場合には航空機の高度を考慮する必要があります。VORに併設されることが多く、現在、VOR/DMEとして国内でも広く運用されています。

 

・ILS(Instrument Landing System : 計器着陸装置)

空港に施設される航空機のためのシステムです。滑走路までの距離を示すマーカービーコン、滑走路への降下経路を示すグライドスロープ、水平方向の進入方向を示すローカライザからなります。アンテナはマーカービーコンはダイポールアンテナ、グライドスロープはコーナリフレクタアンテナ、ローカライザは対数周期アンテナなどが用いられます。マーカービーコン、ローカライザはVHF, グライドスロープはUHFの電波を使用します。着陸進入中の航空機のための設備で空中線電力は1W~10Wと小さいです。

ILSの地上設備の操作には陸上無線技術士または航空無線通信士の免許が必要です。

 

・衛星無線航法装置

衛星を利用した無線測位システムです。今日、普及が進んでいます。

GPS(Global Positioning System)

GPSは6つの軌道に、各軌道に4機の衛星を配備し、利用者が常に4機以上を利用できるようにしたシステムです。緯度、経度、高度、時刻のずれの4つの未知数を決定するために4機の衛星が利用可能である必要があります。

軌道は高度20,200m、軌道傾斜角55度、公転周期約12時間です。

民間は1575.42MHzのCDM(符号分割多重)のUHFの電波を受信して利用します。位置の誤差は20~40mです。

また、位置が既知である地上の基準局を追加で利用することでより精度の高い位置情報を得るディファレンシャルGPS(DGPS)もあります。GPSのみによる測位を絶対測位、DGPSによる測位を相対測位といいます。

 

・レーダー

一次レーダーと二次レーダーがあります。一次レーダーはいわゆる通常のレーダー、二次レーダーは発射した電波を目標物が受信した後、電波を再放射し返してそれを受信して目標の位置を決定するレーダーです。二次レーダーは航空用途で使われるほか、高速道路のETCなども二次レーダーの一種といえます。

船舶用には3GHz帯(Sバンド)、9GHz帯(Xバンド)のレーダーが多く使われています。長距離用にはSバンド、近距離用にはXバンドが適します。

船舶用レーダーはマグネトロンなどで電波を発生させ、スロットアレーアンテナからファンビームと呼ばれる指向性の水平偏波の電波を発射します。

船舶用レーダーの表示器はPPIスコープと呼ばれるものが用いられ、自船の位置を中心として目標の距離と方位を指示します。

航空機には航行用レーダー、気象レーダー、電波高度計が施設されます。

電波高度計は4.3GHz帯の電波を用いて対地高度を測定するレーダーの一種です。高高度用にはパルスレーダー、低高度用にはFM-CWレーダーが適します。

海上および船舶の航行用レーダーの操作には海上無線通信士など、航空用途の地上および機上の航行用レーダーの操作には航空無線通信士などの免許が必要です。

 

主な電波航法について概観しました。電波航法によって目覚ましく安全かつ効率的な運航が可能となります。現代の航行では電波航法は欠かせないものとなっています。

国際法規上も電波航法への妨害・混信は有害であり、避けなければなりません。

 

 

筆者

・第一級陸上無線技術士

nanoVNAでモービルアンテナのSWRを測定する

アンテナのSWR(定在波比)をnanoVNAで測定してメーカー公称のVSWRと比較してみます。nanoVNAはとても小型で安価なアンテナアナライザとして利用可能です。本来はネットワークアナライザですが、今回は第一電波工業株式会社の144/430MHz帯2バンドモービルアンテナSG7900のSWRの測定のみを行います。

 

nanoVNAは若干見た目などが異なるものがいくつか販売されており、価格も少しばらつきがあります。仕様は大きく異ならないと思うので、その中でも比較的安価なものを選びました。

 

SG7900はモービルアンテナとして優れた製品です。実際に交信で使っていますが良好です。あまり大きなアンテナなどが設置できないので固定運用でも手軽に使える便利な製品として重宝しています。

 

SG7900の規格は

・利得/5.0dB(144MHz)、7.6dB(430MHz)

インピーダンス/50Ω

・VSWR/1.5以下

・全長/1.58m

・型式/7/8λダブルC-Loadノンラジアルホイップ(144MHz),
   5/8λ3段C-Loadノンラジアルホイップ(430MHz)

となっています。モービルホイップとしては比較的高利得です。

アンテナ基台は第一電波工業株式会社 MR5Aを使用します。

 

SWR(定在波比)には電圧定在波比と電流定在波比がありますが、一般に定在波比と言った場合は電圧定在波比(VSWR)を指します。

SWR(VSWR)は線路(同軸ケーブルなど)に生じる定在波の腹の電圧Vmaxと節の電圧Vminの比で

VSWR = Vmax/Vmin

1≦VSWR

です。

アンテナの給電点インピーダンスと線路の特性インピーダンスが等しいときにSWRは最小値1をとります。SWRは低いほうが電力の反射がなく効率よくアンテナから電波としてエネルギーが送出されることになります。送信機、線路、アンテナのインピーダンスの整合を取ることが重要で、SWRはその整合の程度の指標となります。特性インピーダンスが50Ωの同軸ケーブルの場合、アンテナの給電点インピーダンスが50Ωであればよいことになります。インピーダンスは抵抗成分とリアクタンス成分からなるベクトル量で、アンテナの給電点インピーダンスはリアクタンス分を0とし純抵抗50Ωとするのが理想です。SWRが1に近いほど理想的な特性で、大きくなると反射が大きくなり、最悪の場合には送信機の終段を焼損することもあります。

 

使用するnanoVNAのファームウェアのバージョンは0.8.0です。PCとの接続やファームウェアの更新などに関してはWeb上の情報などを参照してください。

 

測定の前にnanoVNAの較正を行います。

nanoVNAには較正用のダミーロードが付属しますが、50Ωのダミーロードは1つしか付属しません。50Ωのダミーロードは較正には厳格には2つ必要です。50Ωのダミーロードは安価に購入可能なので別途用意しておくとよいでしょう。

周波数レンジ144~146MHzと430~440MHzを設定してそれぞれ較正します。

 

較正したら接続します。アンテナ側のコネクタがM型接栓でnanoVNAはSMAなので、変換ケーブル1D1SRを使って接続します。

 

SG7900はアース不要のアンテナですが、念のためアンテナ基台MR5Aを接地します。テスターでアースとアンテナ下部の導通を確認します。きちんと導通しておりひとまず接地OKとします。

 

144~146MHzでのSWRの測定結果です。

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SWRが1.5以下であることが確認できます。

 

430~440MHzでの測定結果です。

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430~431MHz程度までではSWRが1.5を少し上回っていますがそれ以外では1.5以下です。

 

メーカーのVSWR表は以下にある通りです。

http://www.diamond-ant.co.jp/pdf/sg/sg7900.pdf

 

測定したSWRは144MHz帯ではメーカー公表のVSWR表よりいくぶん良好といえます。430MHz帯ではメーカーの表よりは若干悪い結果ですが概ね1.5以下です。

 

アンテナの設置条件でもSWRは変化しますし、測定の誤差も考慮する必要があります。また、ケーブルやコネクタで減衰がある場合、SWRは見かけ上低くなります。コネクタ、ケーブルで反射がある場合にはSWRは見かけ上高くなります。

144MHz帯は低く良好な結果となりました。430MHz帯はメーカーのVSWR表ほど下がっていませんが、1.5以下がひとつの目安とされる場合が多いのでその基準はほぼクリアしています。

 

簡易な測定での実測値としては悪くない結果であるといえます。

 

nanoVNAを使用すると簡単にSWRの測定ができました。いろいろなアンテナを比較してみたり、設置条件を変えてみたりして測定結果を比べてみるのも面白いと思います。

また、今回はVHF/UHF帯の測定でしたが、nanoVNAはHF帯の測定も可能です。HFアンテナについてもnanoVNAが利用可能です。

nanoVNAを入手したら測定の前に較正を忘れず行いましょう。

 

430MHz帯FM(F3E)はバンドプランで431.40MHz以上なのでこの測定結果からもSWRの心配なく安心して交信に使用できます。

 

最後に、測定しておいてなんですが数値は性能のひとつの側面を示している程度に捉えるべきでしょう。性能や使用感は実際に使ってみるのが一番です。

 

測定者

・第一級アマチュア無線技士

・第一級陸上無線技術士