UHF 430MHz帯(70 cmバンド)ノンラジアルモービルホイップアンテナのSWR

UHF 430MHz帯のモービルホイップアンテナはノンラジアルでアース不要のものが市販されています。そもそもアンテナにアースやラジアルがなぜ必要なのか、ノンラジアルでもSWRが低いのはどういうことかを考察して、430MHz帯のノンラジアルモービルホイップのSWRを下げるにはどうすればいいか論じます。

 

ホイップアンテナは不平衡アンテナに分類されます。ダイポールアンテナは平衡アンテナです。平衡アンテナであるダイポールアンテナは左右(上下)のエレメントにそれぞれ位相が逆の電圧(電流)で給電します。これを平衡給電といいます。左右のエレメントが逆の電圧を持ち、アンテナ全体で左から右、右から左と電流が流れます。これにより空間に電波としてエネルギーを送出します。

不平衡アンテナであるホイップアンテナは、進行波のみがアンテナに流れる場合、エレメントが電圧を持ちますが、電圧を持つというときには何に対して電圧を持つのかということをいわないと意味を成しません。ホイップアンテナのエレメントは

同軸ケーブルの外部導体の電位=アンテナ基台の電位=アースの電位

に対して電圧を持ちます。すなわち、アースの電位が0になるということです。上のイコールは同軸ケーブルとアンテナ基台がきちんと接続されていて、かつきちんとアースが取れているときのみ成り立ちます。

アンテナ基台がきちんとアースされていないと、アンテナの持つ特性によってアンテナ基台に電位が生じます。すなわち同軸ケーブルの外部導体に電位が生じるということで、同軸ケーブルの外部導体が内部導体に対して電圧を持ってしまいます。外部導体が電圧を持つと、もともと外部導体が電圧の基準だったわけですからそれに応じて内部導体が電圧を持つことになります。これは進行波のみのときにはなかったもの、すなわち反射波になってしまいます。ですから、アンテナ基台(同軸ケーブルの外部導体)の電位は0で一定でないとSWRが大きくなります。そのため、アンテナ基台のアースを取って同軸ケーブルの外部導体の電位を0に保ち、反射波を抑えることでSWRが低くなります。

これがアンテナのアースを取る理由です。

 

同軸ケーブルの外部導体の電位が0に保たれればいいということを利用したのがラジアルです。ラジアルは互いに同軸ケーブルの外部導体に流れる電流を打ち消しあうように作用します。電流がキャンセルされるので電圧もキャンセルされます。

以上のことから、アンテナは適切にアースするかラジアルを取り付けないとSWRが上がります。

 

ラジアルの長さは電波の波長によって決まります。理屈の上では1/4波長になります。HFであれば波長は10 m以上になるので(アースを取らないのであれば)ラジアルを省略できません。ところで、周波数が高くなると波長は短くなります。HFは3~30MHzですが、UHFの430MHz帯では波長は1/10以下、70 cm以下になります。ラジアルの長さもそれに伴ってかなり短くて良いことになります。そんなに短くていいのならなくてもいいのではないか、というのがノンラジアルホイップの発想だと思います。ラジアルなしでもSWRが下がるように調整されたアンテナがノンラジアルホイップです。周波数が高い(波長が短い)からできるテクニックといえるでしょう。

 

では、ノンラジアルのモービルホイップは本当にアースを取らなくてもいいのか、ですが、上記をお読みになられたのであれば、SWRを下げたければアースを取ったほうが良いとおわかりでしょう。実際、きちんとアースを取れればSWRが下がることは多いです。

UHF 430MHz帯は周波数が高いので容量結合のインピーダンスが低くなります。ですので、金属の塗装面の上にアンテナ基台を置いてもアースは取れます。塗装を剥がして金属面どうしを直接接触させなくても容量結合で充分アースになります。

それより、HFなどの場合よりも誘導性リアクタンスによるインピーダンスを下げることが重要になります。

アース線を使うような場合は

・なるべく短くする

・なるべく太くする

・複数本で接地する

ことが大事になります。

一般的な接地抵抗を下げることに気をつけるのに加えて上記の配慮が重要になります。長いアース線で接地してもあまり意味はありません。

車のボディなどをアースにする場合はなるべくインピーダンスが低くなる位置で取るようにします。これには測定器(SWR計やアンテナアナライザなど)と実際にいろいろと試してみることが必要になります。

 

ラジアルを取り付けてもよいではないかというのも道理はあって、うまくやればSWRは下がります。ところが、ラジアルは長さ以外にも、本数、角度、位置などいろいろな要素の影響を大きく受けます。そのため、ラジアルでSWRを下げるには地道な調整が必要です。

 

最近は測定器も安いものが手に入るようになってきましたが、「どうも測定値が信用できない」ということがあると思います。

正しく測定するというのは大前提ですが、その前に意外と大事なのが、測定前の測定器の較正です。測定器は測定前に正しく較正をしないと測定値が信用できません。

最近はnanoVNAをアンテナアナライザとして使う方もいると思います。nanoVNAに付属のケーブルでは430MHz帯は正しく較正や測定はできません。

nanoVNAを430MHz帯で使うには、較正や測定には素性の知れた同軸ケーブルでなるべく短いものを用いる必要があります。ダミーロードも50Ωの純抵抗(ちゃんと較正するには2つ必要)が理想です。もちろんコネクタも50Ωのものを使用します。そうでないと測定したSWRが信用できないということになります(付属のケーブルは結構ひどい)。

SWR計を使う場合、送信出力5W以下ではSWRが低めに出るなど正確に測れないことがあります。SWR計の特性の非線形性のためです。送信出力は20Wや50Wなど、SWR計が線形領域で動作する十分な出力が必要です(もちろん大きすぎてもだめ)。当たり前ですが、SWR計も測定前に較正を行わないといけません。

正しく較正をして正しく測定しないと信頼できるSWRは得られません。

 

ノンラジアルのモービルホイップアンテナのSWRは

ノンラジアルアンテナでもアースやラジアルで変化する

・正しく測定しないと信用できない

この2点を原則として押さえておかないと話がかみ合いません。実際の調整もうまくいきません。