AM送受信機(航空用、一般通信用)の実際

0. はじめに

基礎的なAM送受信機の理論や構成についての知識を前提に、少し詳細について述べたいと思います。

 

AM(DSB)での無線通信は現在もVHF航空無線で広く用いられています。一般通信用にはFMのほうが広く普及していますが、AM送受信機について知ることは送受信機一般の理解のためにも有用です。

 

航空用としては118~137MHzでAM無線電話による通信が広く行われており、この周波数帯を受信できる一般のAM受信機で聞くことができます。航空局用AM受信機(航空交通管制用AM受信機)も他のAM受信機と特別に変わっているわけではありません。

 

1. 航空局用AM受信機

航空局用AM受信機はダブルスーパーヘテロダイン方式のものが多く用いられています。AM受信機は強い信号波でも弱い信号波でもなるべく同じレベルの出力を得るために、強い信号は利得を小さく、弱い信号は利得を下げずに増幅するためのAGC回路が用いられます。

 

AGCは通常、中間周波増幅器の利得を調節して抑圧しますが、航空局用AM受信機はアンテナで受信され同調回路で選択されたRF信号がAGCで制御される減衰器を通ります。また、中間周波増幅器の利得もAGCが制御して、両者で全体として中間周波信号の利得の制御を行います。

AGCは中間周波増幅器の利得を抑えるものなので、微弱な受信波に対してはほとんど動作しないことが重要になります。この特性を備えたAGCとして遅延AGC(DAGC)が用いられます。

また、中間周波信号の利得に加え、低周波出力の利得を制御することで最終的な出力を一定にすることを目的としたものがあり、オーディオAGCと呼ばれます。

 

同調回路あるいはその前段には可変容量ダイオードを用いたフィルタが挿入されます。可変容量ダイオードは逆方向電圧を大きくして静電容量を大きくするとQが低下する特性を有するので、並列に接続し個々の静電容量が小さい範囲で用いる工夫がされます。

Qは(同調周波数)/(帯域幅)で表される量です。

 

また、第一周波数変換部と第二周波数変換部の間に、近接周波数選択度を改善するための急峻な特性を持つBPFが挿入されます。クリスタルフィルタなどが用いられますが、今日では性能の良いディジタルフィルタが用いられるケースも増えてきていると思われます。

 

入力信号がないときに低周波増幅器の動作を止めて雑音が出力されるのを防ぐスケルチは、第二中間周波増幅器の出力をもとに動作するキャリアスケルチと検波器出力の信号成分より高い周波数の雑音を増幅して動作するノイズスケルチがあります。キャリアスケルチは強電界域での使用に適し、ノイズスケルチは弱電界域でも使用することができます。どちらも一長一短あります。

 

検波器は第二中間周波増幅器の後段に置かれ、変調された中間周波信号から音声信号を取り出します。検波器にはダイオードコンデンサおよび抵抗からなる直線検波器、直線検波器のコンデンサを省略した構成の平均値検波器、ダイオードの二乗特性を利用した二乗検波器などがあります。平均値検波は出力電圧が直線検波の1/πに落ち、効率が低下しますが歪みが少ない性質があります。二乗検波は変調度が大きくなると歪みが大きくなる性質があります。

これらのほかに、同調回路からのRF信号または中間周波信号から、PLL回路による周波数シンセサイザにより搬送波を再生し、乗算回路でRF信号または中間周波信号と乗算したのちフィルタで必要な信号波のみを取り出す同期検波があり、IC・ディジタル技術の進展により広く用いられています。

 

検波器で取り出された音声信号は低周波増幅器でスピーカーやヘッドフォンを駆動できる電力まで増幅されます。

 

2. 一般通信用AM受信機

同様の構成です。AGC制御されるRF減衰器や第一周波数変換部と第二周波数変換部の間のBPFなどは省略されることがあります。AMラジオではスケルチがないことが普通です。

一般通信用AM受信機には、空電などによる衝撃性雑音を消去するノイズブランカを備えるものがあります。ノイズブランカは信号系と別系の雑音系で雑音を増幅し、増幅された衝撃性雑音によって信号系のゲート回路を開閉して衝撃性雑音と信号の両方を同時に消去するものです。

 

AM受信において、音声の聞き取りやすさや明瞭度はアンテナからの入力信号の大きさに左右されますが、変調度にもよります。

入力信号強度の変動はAGCによりある程度は吸収されますが、変調度は受信品質に影響します。一般に変調度が小さすぎると音声が小さくなりS/Nが悪化します。変調度が大きすぎて過変調となっている場合には音声が歪み聞きづらくなります。

変調度は(信号波振幅)/(搬送波振幅)で表され、1を超えると過変調となります。

変調度はAM送信機での変調によります。

 

3. 航空局用AM送信機

マイクから入力された音声はLPFで2500Hz以上の成分が除かれ、過変調になるような過大な振幅がリミッタで制限されたのち、変調器に入力されます。周波数シンセサイザでは搬送波を生成しこれを変調器に入力して、音声で搬送波が変調されたDSB波を出力します。

このDSB波を所定の送信出力まで増幅する方法を低電力変調といいます。航空局用AM送信機や一般通信用AM送信機は多くが低電力変調です。

低電力変調は変調に要する電力が小さく済みますが、歪みの少ない増幅器が必要になります。

 

変調された搬送波は、利得が可変の励振増幅器で後段を動作させるのに十分な電力まで増幅されます。その後、利得が固定の電力増幅器で所要の出力電力まで増幅されます。歪みの少ないAB級増幅器などが用いられます。

 

電力増幅器の出力は不要な成分を除去するLPFを通過し、アンテナへつながる給電線へ送られます。

アンテナの効率が100%で給電線とアンテナが完全に整合していれば問題はありませんが、現実には不整合などで反射波が生じます。反射波が大きいと送信機を焼損するので、反射波の大きさに応じて励振増幅器の利得を制御する回路を備えて給電線へ出力する電力を自動的に調整します。出力は50W程度です。飛行中の航空機相手であれば370kmを超える距離の通信も可能です。

 

また、電力増幅器の出力を検波してサイドトーン(受話器から聞こえる自分の声)を得ます。

 

4. 一般通信用AM送信機

出力などに差はあっても仕組みはほぼ同様です。変調器出力をいったん中間周波信号としたのち中間周波増幅器の利得を制御する方式もあります。サイドトーンがない場合もあります。

 

5. 航空機搭載AM送受信機

航空局用AM受信機と航空局用AM送信機をひとつの筐体に入れて共用できる部分を共用し小型にして、若干簡素化したようなものです。受信中は送信機が停止し、送信中は受信機が停止する単信通信方式で、アンテナは送受信で共用します。送信出力は30W程度です。

 

6. VHFの伝搬特性

航空用と一般通信用のAM通信はVHFで行われることが多いです。VHFによる通信はその伝搬特性上、基本的に見通し線圏内となります。航空機が高高度で航行している場合には有効通達距離は数百kmになりますが、それでも洋上などで広い範囲が通信圏外となります。

 

航空では見通し線圏外とVHFでAM通信できる仕組みがあり、ER-VHFと呼ばれます。対流圏の大気の屈折率の不均一に着目し、高電力の送信機と高利得のアンテナ、高感度の受信機を用いて、放射した電波を大気が散乱することを利用して見通し線圏外との通信を行います。受信入力レベルが一定以下になると急激にS/Nが悪化するFMでは不向きですが、AMではこのようなことが可能です。

 

7. 終わりに

アナログAM送受信機は現役です。上記に加え、近年ではディジタル信号処理の発達に伴って、DSPによる信号処理でアナログAMの通信品質を向上させるということも可能になっています。各種回路はIC化されて小型軽量化・省電力化・高性能化・低価格化し、信頼性も高くなっています。