空中線(antenna)について

空中線(アンテナ)というとただの針金と思われている方もいるでしょうが、多少は正しいですが実際はそう単純なものではありません。アンテナの種類は多く、その理論はかなり難しいです。アンテナの実際、種類、理論などにも少し触れてみたいと思います。

 

最も単純な実際のアンテナは一般的な小型FMラジオについているような直線状のロッドアンテナでしょう。これはシンプルな金属棒です。長さはあまり短いと受信性能に劣りますがやたらと長ければいいものでもなく、一般に電波の波長の1/4程度の長さとすると効率よく受信できます。85MHzのFM放送なら約88cmとかなり長くなるので実際は短めのものが多いです。アンテナ基部にコイルを入れると電気的に長さを稼げます。後ほど述べます。

 

理論上、基本となるアンテナは3つあります。等方性アンテナ、微小ダイポールアンテナ、半波長ダイポールアンテナです。基本的にアンテナはこれら3つのアンテナを基盤に論じることになります。

 

等方性アンテナは放射点から4πステラジアンのどの方向にも同じ強度で電波を送受信できる仮想的なアンテナ(無指向性)です。現実には理想的な等方性アンテナは存在しないのですが、アンテナの理論上重要です。

 

微小ダイポールアンテナも仮想的なアンテナですが、アンテナ理論上欠かせないものです。電流が流れる微小な長さの短い導体です。長さが微小量なので物理量を求めるには積分をします。

 

半波長ダイポールアンテナは実際に存在する製作可能なアンテナです。実在のアンテナとして最も基本的であり、仮想的なアンテナとの橋渡し役でもあります。構造は1/4波長の長さの導体(エレメント)2本を隣接して直線上に配置したものです。

 

アンテナには利得というものがあります。おおざっぱにいうとどれくらい効率的に電波を放射するかを数字で表したものです。絶対利得(dBi)と相対利得(dB)があります。等方性アンテナに対しての利得が絶対利得、半波長ダイポールアンテナに対しての利得が相対利得です。等方性アンテナの絶対利得は0dBi, 半波長ダイポールアンテナの絶対利得は2.15dBi, 相対利得は0dBです。dB(デシベル)は比の対数を取った表記法です。

 

アンテナには可逆定理というものがあり、同じアンテナを送信に使ったときと受信に使ったときで利得、指向性、入力インピーダンスは一致します。これらはアンテナの基本的特性です。

 

アンテナには入力インピーダンスというものがあります。単位は[Ω]で抵抗と同じですが、インピーダンスは電場と磁場の比であって普通のテスターで測ることはできません。送受信機、給電線(ケーブル)、アンテナのそれぞれにインピーダンスがあり、できる限りそれらを一致させないと(整合を取らないと)効率よく送受信ができません。受信の場合はまださほどシビアにならなくてもよいのですが、送信アンテナの場合には非常に重要になってきます。テレビの同軸ケーブルなどは75Ωになっています。

 

どれほどインピーダンス整合が取れているかを示す指標にVSWRがあります。1以上の実数です。1のとき完全に整合が取れており、値は小さいほうが望ましいです。VSWRをいかに下げるかが送信においては非常に重要になります。

 

アンテナは周波数ごとに適した長さがあるので、すべての周波数をカバーできる適当な長さはありません。やみくもに長くすればいいわけではないのです。電波の波長λは、周波数をf[MHz]とするとおよそ

λ=300/f [m]

で計算できます。アンテナ(エレメント)の長さはλ/4が基本的です。666kHzのAM放送だと100m以上にもなります。

 

アンテナの長さは十分に確保することが難しいことも多いので工夫がされています。アンテナに直列にコイルを挿入する(またはエレメント自体をコイル状に巻く)と等価的に長くしたのと同様の効果が得られます。長さが稼げないアンテナでよく使われています。

 

アンテナの大きさに制約があると言えばやはりスマートフォンのアンテナでしょう。スマートフォンには板状逆F型アンテナという低姿勢の平面状のアンテナが内蔵されています。アンテナは近い物体の影響をうけるので、人体の影響を受けます。送受信への影響を低減するため、スマートフォンには板状逆F型アンテナが位置をずらして2つあり、状況に応じて2つのアンテナを切り替えたり出力を合成したりして効率の低下を防いでいます。板状にすることで広い周波数の範囲に対応できます。

 

建物の屋上にはよくTV受信用の八木・宇田アンテナが設置されていて、見かけることも多いと思います。細いパイプ(エレメント)が何本も平行に配列されたアンテナです。送受信機に接続されているのはたくさんあるエレメントのうちの1つだけです。あとのエレメントはただの棒なわけですが、高い利得と指向性を得るために必要不可欠です。ただのパイプを適当な間隔で前後に配置しただけで利得や指向性が大きく変化するというのも面白いですね。複数のエレメントが送受信機につながっているタイプのアンテナもあります。

 

ところで、FMラジオのアンテナは普通は垂直に立てますが、横向きに寝かせたらどうなるのかと思ったことはありませんか。電波には直線偏波円偏波があり、直線偏波には垂直偏波と水平偏波があります。直線状のアンテナで送信すると直線偏波となり、アンテナを地面に垂直にすると垂直偏波、水平にすると水平偏波となります。超短波放送(FM放送)は水平偏波と電波法令で定められているので、教科書的には受信アンテナを倒したほうが良好に受信できるはずという話にはなります。ただ、電波は反射などをして偏波が変わるので一概にどの角度でアンテナを立てればよいかは実際にやってみるしかありません。

 

同じ周波数、同じ伝送路でも直交する偏波を使うと2波同時に送受信できるため、利用効率が倍になります。どれくらい2波の偏波が直交しているのかを表すのに、交差偏波識別度(XPD)があります。

(XPD)=10log(E_p/E_c)^2=20log(E_p/E_c)

で定義されます。対数は常用対数です。E_pは主偏波の電界強度、E_cは交差偏波の電界強度です。XPDが十分大きくないと両偏波間に混信が生じます。XPDは前述のように障害物での反射などにより低下するほか、降雨によっても交差偏波成分があらわれて低下します。送受信アンテナの特性による低下もあります。構造が非対称なアンテナではXPDが低下します。

 

アンテナ長は3/8波長や5/8波長などのものも実用化されています。3/8波長は1/2と1/4の中間ですが、50Ω系の送受信機、ケーブルと整合が取りやすい利点があります。5/8波長のアンテナは電波の打ち上げ角が低く利得が大きいです。3/4波長アンテナの短縮と考えることができますが、短縮するとインピーダンスが容量性となるので、前述のコイルを挿入する方法によって容量成分を打ち消します。5/8波長アンテナは7.6dBiなどというものもあり、半波長ダイポールアンテナより5.45dBも高利得ということになります。これは半波長ダイポールアンテナに3.5倍の電力を供給したのと同じ効果です。

 

アンテナの利得を3dB上げれば元のアンテナで送信電力を2倍にしたのと同じことになります。半波長ダイポールアンテナより10dB高い利得(12.15dBi)のアンテナを使えば、半波長ダイポールアンテナで電力を10倍にしたのと同じことになります。むやみに送信電力を上げるよりアンテナの性能を上げることの重要性がわかると思います。半波長ダイポールアンテナは構造がシンプルな基本的なアンテナで多く使われています。

 

アンテナは利得と指向性は大事ですが、入力インピーダンスも非常に重要です。いくら利得が高いアンテナでもアンテナの入力インピーダンスとケーブルの特性インピーダンス、送受信機のインピーダンスが整合していないと十分な性能が得られないばかりでなく、送信アンテナの場合は送信機を焼損することもあります。インピーダンスの整合を取ってVSWRを低くすることがとても重要になります。アンテナ本来の性能が出せていないケースというのはよくあります。

 

アンテナの特性は利得、指向性、入力インピーダンス偏波などがあり、さらに機械的強度や大きさ、重さなども問題になります。これらを勘案して適切なアンテナを選定し、インピーダンスの整合を取ってVSWRを下げ、指向性アンテナの場合はビームの方向を調整し、不要な電波を避けまた不要な方向へ電波が放射されないように工夫し…と大変で難しい作業が必要になることもあります。アンテナによっては大変高い製作精度が要求されるものもあります。

 

最終的には電波が送受信できるかどうかですが、不必要に電波をばらまくと混信や電波の有効活用の妨げなどの原因となるので、電波伝搬なども考慮に入れた相当広い範囲の知識や技術が要求されるのです。

 

今回はアンテナの一部に絞って数式をほとんど使わず概説しました。しかし、アンテナと給電線(ケーブル)は非常に密接な関係にあり、給電線も相当奥深いものなので重要であることを指摘しておいてここではこれ以上触れないことにします。また、アンテナと電波伝搬も切り離すことができません。電波伝搬も広く難しい分野ですがこれも非常に重要でアンテナについて議論するときは電波伝搬も併せて考慮する必要があることを指摘しておきます。

 

いくら高性能な受信機があってもアンテナがなければなにも受けることができません。スマートフォンなどにも直接は見えないですが工夫されたアンテナが内蔵されていて、それにより通信が可能なのです。

 

アンテナ特性はいろいろあるので混乱するかもしれません。どれも大切です。アンテナに限ってワードとして挙げておくと

入力インピーダンス、利得、指向性、偏波帯域幅、電流分布、実効長

などがあります。