電波航法(Radio navigation)概説

船舶や航空機が航行中にその自位置を知り、出発地から目的地までの航行を電波により導くシステムが電波航法(Radio navigation)です。電波航法には地上系と衛星系、船舶向けや航空機向けがあります。広義にはレーダーを含めます。船舶や航空機の安全および効率的な運航に非常に重要で不可欠です。以下、概説していきます。

 

・地上無線航法装置

陸上に設置した無線設備の電波を利用する電波航法システムです。船舶・航空機ともに利用されますが、いくつかのシステムは近年廃止されつつあります。

ロランC

長波帯(周波数100kHz程度)の電波を用いた双曲線航法システムです。双曲線航法とは「ふたつの送信局から同時に発射されるパルス信号の到達時間差が一定となる点の軌跡は送信局を焦点とする双曲線となる」というもので、ロランCは精度を高めるためにそれに位相の整合を行ったものです。送信局からの利用可能な距離は昼間より夜間のほうが長くなります。これは夜間は電離層のD層が消失するためです。D層は一般的には100kHz程度の電波には減衰層として働くため、昼間は夜間より電離層波が利用しづらいですが、夜間はE層での電離層波が利用できるため電波の到達距離がより長くなります。

ロランCは波長の長い長波帯の電波を使用するため、送信局のアンテナは非常に巨大です。空中線電力は1500kWなどと大変大きいです。これは電波を長距離届かせるためと長波帯はアンテナ長等の関係上輻射効率が低いためです。

主に船舶で利用されますが、航空機でも利用されてきました。一般に波長の長い電波による電波航法は精度が劣る傾向にあり、GPSなどに比べて精度は低いです。

日本では現在は送信局は廃止されており運用されていません。

 

・NDB(Non-directional Radio Beacon : 無指向性無線標識)

中波帯の電波を用いた無線標識です。モールス符号コールサイン振幅変調して送信しています。ひとつの送信局があれば方向を探知でき、ふたつの送信局の電波により位置がわかります。中波帯の電波は山陰などにも届きますが、マルチパス(複数の経路による電波の伝搬)による位相ずれやフェージング(電波受信レベルの変動)の影響などを受けやすく、波長が長いこともあり精度は必ずしも高くありません。遠くまで電波が届きやすい点はメリットにもなります。

NDBの空中線電力は最低で20W、出力の大きな送信局では数kWになります。

主に航空機で利用されており、機上のADFと呼ばれる装置で方向を探知します。受信側はループアンテナまたはバーアンテナを用います。

国内では後述のVORに置き換えられ、NDBは減少傾向にありますがまだ運用されています。NDBの地上設備の操作には陸上無線技術士の免許が必要です。

 

・VOR(VHF Omni-directional Radio Range : 超短波全方向式無線標識)

超短波(VHF)帯の電波を用いた無線標識です。主に航空機で用いられます。VHFの伝搬特性より通達距離は原則、見通し距離内となります。空中線電力は100W~200Wです。地上の1周が1波長程度の正方形のアルホードループアンテナにより水平偏波の電波を水平面内ほぼ全方向に放射します。磁北から時計回りの自機の方向(heading)を知ることができます。標準VOR(CVOR)とドプラVOR(DVOR)がありますが、現在、DVORが多く用いられています。前述の通り、電波の到達は見通し距離内に限られるため、水平線以遠や山間などでは利用不可となります。

VORの精度は比較的高く、現在も多くが運用され利用されています。

VORの地上設備は陸上無線技術士でなければ操作できません。VORは後述のDMEと併せてVOR/DMEとして施設されることが多いです。

 

・DME(Distance Measuring Equipment : 距離測定装置)

二次レーダー(電波を受けて再放射するレーダー)の一種で、文字通りDMEと自機との距離を測定するシステムです。航空機で利用されます。極超短波(UHF)帯の垂直偏波の電波を使用します。空中線電力は1kW~3kWです。通達距離は見通し距離内です。

航空機上のインタロゲータ(質問器)がDMEに対して質問信号を送信します。それを受けて地上のトランスポンダが50μs後に応答信号を送出します。質問信号送出から応答信号を受信するまでにかかった時間をもとに距離を算出します。精度は高いですが航空機が地上施設に近い場合には航空機の高度を考慮する必要があります。VORに併設されることが多く、現在、VOR/DMEとして国内でも広く運用されています。

 

・ILS(Instrument Landing System : 計器着陸装置)

空港に施設される航空機のためのシステムです。滑走路までの距離を示すマーカービーコン、滑走路への降下経路を示すグライドスロープ、水平方向の進入方向を示すローカライザからなります。アンテナはマーカービーコンはダイポールアンテナ、グライドスロープはコーナリフレクタアンテナ、ローカライザは対数周期アンテナなどが用いられます。マーカービーコン、ローカライザはVHF, グライドスロープはUHFの電波を使用します。着陸進入中の航空機のための設備で空中線電力は1W~10Wと小さいです。

ILSの地上設備の操作には陸上無線技術士または航空無線通信士の免許が必要です。

 

・衛星無線航法装置

衛星を利用した無線測位システムです。今日、普及が進んでいます。

GPS(Global Positioning System)

GPSは6つの軌道に、各軌道に4機の衛星を配備し、利用者が常に4機以上を利用できるようにしたシステムです。緯度、経度、高度、時刻のずれの4つの未知数を決定するために4機の衛星が利用可能である必要があります。

軌道は高度20,200m、軌道傾斜角55度、公転周期約12時間です。

民間は1575.42MHzのCDM(符号分割多重)のUHFの電波を受信して利用します。位置の誤差は20~40mです。

また、位置が既知である地上の基準局を追加で利用することでより精度の高い位置情報を得るディファレンシャルGPS(DGPS)もあります。GPSのみによる測位を絶対測位、DGPSによる測位を相対測位といいます。

 

・レーダー

一次レーダーと二次レーダーがあります。一次レーダーはいわゆる通常のレーダー、二次レーダーは発射した電波を目標物が受信した後、電波を再放射し返してそれを受信して目標の位置を決定するレーダーです。二次レーダーは航空用途で使われるほか、高速道路のETCなども二次レーダーの一種といえます。

船舶用には3GHz帯(Sバンド)、9GHz帯(Xバンド)のレーダーが多く使われています。長距離用にはSバンド、近距離用にはXバンドが適します。

船舶用レーダーはマグネトロンなどで電波を発生させ、スロットアレーアンテナからファンビームと呼ばれる指向性の水平偏波の電波を発射します。

船舶用レーダーの表示器はPPIスコープと呼ばれるものが用いられ、自船の位置を中心として目標の距離と方位を指示します。

航空機には航行用レーダー、気象レーダー、電波高度計が施設されます。

電波高度計は4.3GHz帯の電波を用いて対地高度を測定するレーダーの一種です。高高度用にはパルスレーダー、低高度用にはFM-CWレーダーが適します。

海上および船舶の航行用レーダーの操作には海上無線通信士など、航空用途の地上および機上の航行用レーダーの操作には航空無線通信士などの免許が必要です。

 

主な電波航法について概観しました。電波航法によって目覚ましく安全かつ効率的な運航が可能となります。現代の航行では電波航法は欠かせないものとなっています。

国際法規上も電波航法への妨害・混信は有害であり、避けなければなりません。

 

 

筆者

・第一級陸上無線技術士