GMDSSについて

現在、国際航海に従事する旅客船・国際航海に従事する300トン以上の船舶の海上通信はGMDSS(Global Maritime Distress and Safety System)と呼ばれる制度に基づいています。GMDSSでは通信の近代化が図られ、モールス電信など従来の通信士に課せられていた特別な技能を義務から外し、遭難信号などの自動化や予備の通信設備の義務化、無線電話のほかにDSC, AIS, NBDPなど複数の手段による通信、SARTやEPIRBなど遭難時に動作する無線設備の義務化など通信の省力化と安全性の向上が図られています。

 

GMDSSでは船舶の規模のほかに航行する海域別に要件が定められています。VHF無線電話(国際VHF)で海岸局と通信可能な海域から衛星通信の圏外まで国際的には4つの海域に区分されます。区分ごとに要求される通信設備や通信士の資格種別が異なります。

 

 GMDSSは設備的要件と人員的要件があります。設備から見ていきます。

 

一般的にGMDSSの船舶には以下のような設備が要求されます。

・無線電話(VHF, MHF, HF)

・レーダー(3GHz, 9GHz)

・DSC(デジタル選択呼出装置; VHF, MHF, HF)

・NBDP(狭帯域直接印刷電信)

・AIS(船舶自動識別装置)

・LRIT(船舶長距離識別追跡装置)

・SSAS(船舶保安警報装置)

・SART(Search and Rescue Rader Transponder)

・衛星EPIRB(非常用位置指示無線標識)

・衛星無線航法装置(GPSなど)

・NAVTEX受信機

などです。

国際航海に従事する旅客船・大型船には多彩な通信設備が装備されます。全体としては複雑な印象ですがいくつかの設備は統合されます。主要な設備については予備を装備することも義務となっています。

いくつかの設備について概観します。

無線電話は船舶の通信設備として基本的です。海上の船舶の通信は無線による以外にほぼないので無線での電話が装備されます。VHFの電波で通信できる場合には第一に国際VHFとして定められた周波数で通信します。FMで空中線電力は船舶局で25Wまでです。原則、見通し距離内での通信に限られます。VHFではDSCも用いられます。DSCはボタンひとつで遭難信号の送出などが可能です。VHF圏外との通信ではMHFやHFの電波での通信も行われます。HFではSSBなどの電波形式が用いられます。電離層伝搬により遠距離通信も可能ですが安定した通信は難しい面もあります。

レーダーは航行上重要であり必須です。レーダーには技術的要件が定められており、検定に合格している必要があります。

SARTやEPIRBは遭難時に動作する設備です。SARTは他の船舶のレーダーに反応してそのスクリーン上に自船の位置を指示します。衛星EPIRBは自動または手動で衛星経由で陸上の機関に遭難を通報します。

AISは船舶の位置や識別、速度などを自動的に送信する設備です。AISにより省力化と安全で正確な船舶のコントロールが可能です。AISの通信範囲は原則として見通し距離内でしたが、衛星経由により見通し外でも通信が可能になってきているようです。

NBDPやNAVTEXは文字情報の通信です。NBDPはキーボードを打って文字情報を送受信し、ディスプレイに表示します。NAVTEX受信機は海上安全情報(文字情報)の放送を受信し表示するもので、GMDSSでは設備が義務付けられており、国際的に運用されていて英語で情報が提供されています。日本では日本語による情報の提供も行われています。

無線航法装置は自船の位置を知るうえで重要です。現在はGPSなど衛星によるものがどの海域でも利用可能で一般的です。以前は地上の無線を用いたロランCなどのシステムもありましたが現在は廃止されています。無線航法装置はDSCやAISなどと連携して位置情報を自動的に送信できます。

 

見通し距離内の通信には直進性の強いVHFの電波が、それ以遠は衛星経由またはMHFやHFによる地表波伝搬や電離層伝搬の電波が使用されます。衛星経由の通信はマイクロ波が使われます。

 

人員についても規定があります。

日本においては、通信士は

第一級・第二級・第三級総合無線通信士

第一級・第二級・第三級海上無線通信士

第一級海上特殊無線技士

のうちのいずれかである必要があります。

また、遭難通信責任者は

第一級総合無線通信士又は第一級海上無線通信士

第二級海上無線通信士

第三級海上無線通信士

のいずれかのうちできるだけ上位と定められています。

さらに、国際航海に従事する旅客船には

第一級総合無線通信士又は第一級海上無線通信士 1名

その他は

第一級総合無線通信士、第一級海上無線通信士又は第二級海上無線通信士 1名

の配置が必要です。

 

海上無線通信士はGMDSSに対応した比較的新しい資格です。第一級~第四級までありますが、第四級は国内通信のみ可能でGMDSSには対応しません。第一級・第二級海上無線通信士および第一級総合無線通信士は無線設備の船上保守が資格上は可能です。第三級海上無線通信士と第一級海上特殊無線技士は国際通信は可能ですが船上保守はできません。

 

取得者数では第一級海上特殊無線技士が多いです。他の資格に比べると取得は比較的しやすいです。総合無線通信士、第一級・第二級・第三級海上無線通信士は難易度が高めで取得者数も少なめです。第一級海上特殊無線技士は国際VHFなどの操作はできますが、HFの無線設備の操作などはできません。第一級総合無線通信士と第一級・第二級・第三級海上無線通信士は船舶に施設する無線設備については周波数の制限も空中線電力の制限もなく操作可能です。

 

船舶の通信士は上記の無線従事者免許に加え、船舶局無線従事者証明を受けていなければなりません。船舶局無線従事者証明を受けられるのは上記無線従事者に限られます。

 

このように、GMDSSの船舶局の通信士には厳格な要件が定められています。

 

国際航海をする際には通信に関してもこのような安全のための制度に守られているのです。

 

細部までは踏み込めませんでしたが、海の通信の安全、GMDSSについて概観しました。

 

Have a safe voyage!