危険物取扱者・高圧ガス製造保安責任者資格取得の意義と方法

工業の国家資格である危険物取扱者と高圧ガス製造保安責任者について、その意義と概要を概観する。その後、意義に沿った効率的な取得法について述べる。

危険物取扱者総務省管轄、高圧ガス製造保安責任者は経済産業省管轄である。試験は大臣や都道府県知事より委託された団体により実施される。

筆者は甲種危険物取扱者および乙種危険物取扱者のすべての類に合格して免状の交付を受けている。高圧ガス製造保安責任者については乙種機械区分を受験し、2020年1月6日に合格した。

まず、各資格の意義について述べる。

危険物取扱者は一定数量以上の消防法で定められた危険物を取り扱うのに必要となる資格で、無資格でのその取扱い(甲種または適当な乙種危険物取扱者免状の交付を受けている者の立ち合いがある場合を除く)は違法である。そのため、まず業務で必要であるから取得が必須な場合が考えられる。決まりごとだから取得しないといけないケースであるが、このケースは受験者の一部に限られる。

化学・物理が受験科目に含まれる(甲種および乙種)ため、それらの知識や理解のお墨付きを得るという動機での受験者も多い。実際、化学メーカーや化粧品などのR&D部門に取得者(特に甲種)がいる。試験を実施している機関の動画などを参照されたい。

危険物は現代社会に身近にたくさんある。ガソリン、灯油、軽油、燃料や消毒に使うアルコール、接着剤、木屑、金属屑、漂白剤の次亜塩素酸ナトリウム、シンナー、ラッカー、ベンジン食用油などは日常生活でよく目にするものだし、道路を走っているタンクローリー掲示を見ると、アクリロニトリルのような物騒な(化学工業上重要な)物質が大量に道路を走っている。もちろん、化学工業プラントではたくさんの種類のたくさんの量の危険物が貯蔵され、反応器で反応され、製品や廃棄物がうまれる。いまや衣食住がこれらの危険物なしには成り立たない。

仕事の幅が広がることもある。あるトラックの運転手が言っていたのだが、資格を取れば運べるものが増えるので仕事の幅が増える、給料にも反映されるという話もあった。

消防に携わる者は危険物の知識がないと適切な防災・消火ができない。水をかけると発火したり可燃性・毒性ガスを発生するものもある。二酸化炭素で覆って消火できないものがある。危険物は一度着火すれば消火は困難なので万が一のときのための消火法も学ぶ必要はあるのだが、学ぶほどに消火が困難で、消火より防災が重要であることが認識できる。自己反応性の物質の多くは有効な消火法が存在しない。

直接関わる機会がなくても、現代社会において広く存在する危険物に対して適切な知識と理解を持った現代人が広く存在することは公共の安全にとって有益である。

防災のための法整備に専門的見地からアドバイスをするうえでも有資格者であることは意義のあることであろう。試験には法令科目もある。

ざっと思い浮かぶだけで以上のような意義が危険物取扱者資格にある。

 

高圧ガス製造保安責任者の意義について述べる。

高圧ガスの取扱いの規制のみならず、自主的な保安の促進が法令で定められている。これをうけて高圧ガス保安の責任者となるべき者として高圧ガス製造保安責任者がある。この資格がないと高圧ガス製造に全く関われないものではない。ただし、保安上の責任者(保安技術管理者、保安主任者、保安係員、取扱主任者、移動監視者など)となるためには必要である。また、これらの職に選任されなくても有資格者程度の知識・技術を有することが望ましいことはいうまでもない。

危険物取扱者同様、企業のR&Dなどでの採用要件が有資格者であることとされることの多い資格である。試験内容は物理学や化学、工学の知識・理解が問われるものであるため有資格者であることはそれを有することを示せることになる。

高圧ガス製造に関わるものにとっては自らの安全に直接影響する資格である。保安の技術や設備の設計、運用などの知識が要求されるため、安全に業務を遂行するのに役に立つものであることは明らかである。

製造だけでなく、一定の条件に当てはまる高圧ガスの消費者は取扱主任者を選任しなければならないが、有資格者は取扱主任者となることができる。また、保安技術管理者や保安係員などは代理人の選任が義務付けられており、有資格者の中からこれらを選ぶこととなっている。

保安係員などは事業所の区分ごと、交代制の場合はさらにそれぞれについて選任しなければならないため、有資格者は不足であるとも言われる。高圧ガスに関する事故は今日も絶えないため、やはり公共の安全のため重要な資格であると言える。

 

危険物取扱者、高圧ガス製造保安責任者ともにいくつか資格の区分があるので概説する。

危険物取扱者は大きく甲種、乙種、丙種の3種があり、さらに乙種は1類から6類までに分類されている。甲種はすべての種類の危険物の取扱および立ち合いが可能であり、乙種は指定された類の危険物の取扱いおよび立ち合いが可能である。丙種は乙種4類のうちの一部のものについて取扱いのみが可能という包含関係にある。試験の範囲および難易度も

甲種>乙種>丙種

となっている。甲種は受験資格を満たさないと受験できない。乙種、丙種は誰でも受験可能である。

高圧ガス製造保安責任者は、甲種化学、甲種機械、乙種化学、乙種機械、丙種化学の区分がある。甲種化学と甲種機械、乙種化学と乙種機械はそれぞれほぼ同等の職務範囲である。丙種化学はその下位という位置づけで、職務範囲に制限がいろいろある。

甲種と乙種は保安技術管理者となる場合に限り条件の差異があり、甲種には制限がない。乙種でも定められた条件内で保安技術管理者となることができる。保安主任者、保安係員、取扱主任者等への選任に関してはいずれも制限を受けない。

 

さて、ではどのようにすれば試験を突破して資格を得ることができるのか、個人的な経験を踏まえて述べる。

危険物取扱者、高圧ガス製造保安責任者ともに、法令科目がある。基本的に法令は一番後まわしが良い。基礎理論や技術的なことをひととおり知ってから法令を学ぶほうが効率的で深く理解しやすい。そして法令に関してであるが、参考書の概説を読むだけでは合格ラインに確実に達することが難しい。概説も読み、実際の法令の条文を読むことが重要である。試験ではかなり際どい設問がいくつかあり、条文を読んでいないと正しく判断できない問題があるためである。面倒そうだが何度も受験する手間に比べれば実は大したことはない。そのうえで問題演習をすればより確実である。

危険物取扱者試験の場合、最も最初に対策すべきは化学と物理である。ここが固まっていないと危険物の性質、消火法などが理解できない。高校や大学で学んでいなければ最も時間のかかるところであるが、学んでいれば復習程度のものである。危険物の性質については、甲種は範囲が大変に広いので、まずは受験制限のない乙種から挑戦するのも良いと思う。

高圧ガス製造保安責任者試験では、一番最初に学ぶべき科目は学識である。やはり全体の基礎であり、かつ一番時間のかかるところでもあるからである。高校理系程度の物理の知識はないと苦労するはずである。参考書も危険物取扱者に比べ少なく、全くの初心者向け参考書はおそらくないと思われる。わからないことがでてきたら調べるか、初歩的な物理学の教科書を読むのも効果的と思う。保安管理技術は実務経験がないとイメージしづらい点もあるが、さほど難しくないのでなんとかなる。法令はかなり細かいところまで詰めないと得点が難しい。毎回良く出る箇所だけで合格点を狙うのはかなり危うい。

 

準備期間は予備知識によってかなり左右される。物理・化学・工学の知識がある程度あるなら、甲種危険物取扱者で半年程度、高圧ガス製造保安責任者(乙種機械)で3か月~半年程度が常識的なところと思われる。予備知識がないなら、それぞれ1年近くを準備する必要があるように思う。一日に取れる勉強時間にも左右される。

どちらも参考書と問題集をするのが良い。危険物取扱者は問題演習をひたすらやる方法もあるが、解けない問題を解くのは苦痛である。高圧ガス製造保安責任者はある程度系統だった理解が必要なので、参考書で必要事項を習得して問題演習が好ましいと思う。

 

試験本番はどちらも時間に余裕がある。普通に解けばたっぷり時間が余るはずである。時間を気にせず落ち着いて一問一問確実に解いていくのが良い。

 

試験に合格する方法はこれくらいのものである。あとはどちらも合格後に免状の申請が必要になるので、手続きをきちんと踏むだけである。

 

公共の安全などのためにも、これらの資格に挑戦される方、取られる方が増えることを期待する。