双極性障害というもの

いまだ病と呼ぶべきなのか障害と呼ぶべきなのかわかりません。どこまでも自分の経験に沿った話をしようと思います。

 

初診は20歳の頃だと記憶しています。もともと高校生の頃からうつっぽい傾向はあったのですが、大学に入ってから途方もない憂鬱感、不眠、電車通学だったのですが毎日駅のプラットホームに立つと、線路に飛び込んだらどうなるのかな…などと思うようになりさすがにおかしいしとてもつらいので精神科を受診することにしたのです。

 

初診では抗うつ薬トレドミン)が少しと睡眠導入剤マイスリー)が出ました。うつの処方としては当時としてはよくある処方です。それでよくなったかというと、不眠は確かにすっきりしました。しかしやたらといらいらするようになり、思考は次から次へと溢れ複数の考えが同時に浮かんできて制御不能になり苦しく、次回の診察で相談したらすぐにやめましょうということになりました。

 

その後再びうつ状態になり、意欲がでない、憂鬱だという状況になったのですね。そんな状態が数年続いたのです。この苦しみは説明しても説明しきれない、そのくらいのものです。

 

一向に快復しないので、リーマス(炭酸リチウム)という薬がでました。どういう薬なのかネットで検索しました。そうしたら双極性障害躁うつ病)に使われる薬のようです。主治医は抗うつ薬の効果を高めるためだと言っていました。

 

しかし釈然としない。主治医は病名を一切言わないのです。うつ病とすら言いません。そこで、聞いてみたのです。「双極性障害じゃないですか」と。

 

しばらくの沈黙の後、その疑いが最も強い、と聞かされました。

「治らないんですよね?」

やはり沈黙。治るかどうかは捉え方次第みたいなことを言われた気がします。頭の中が真っ白でよく覚えていません。

双極性障害は「完治」することのない病気です。一生。ただ、寛解(remission)といって一時的に症状が消失することはあります。双極性障害の治療は寛解が目標です。

 

それから双極性障害の治療が始まったのです。基本的には気分安定薬とよばれる薬を使って治療します。リーマスもそのうちのひとつです。リーマスはよく効くひとと効きにくいひとがいるようで、私は後者のようでした。うつになり寝込んだかと思えば、気が大きくなって散財したり…そんなことを繰り返していました。

 

私は躁はあまりひどくありません。少し気分がいつもより持ち上がる程度で、大きな問題を起こしたことはありません。双極性障害には双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害があり、それぞれ躁がひどい、軽め、という特徴があります。私は後者だと思うのですが、これもいま現在まだどちらか聞かされていません。うつ症状についてはうつ病(大うつ病)よりも重いといわれているようです。

 

大学では学業におおいに支障が出ました。講義に出られないのです。無理して出てもつらくなって途中退室したり…試験対策は自分で参考書を買って無理やりしていた記憶があります。もちろん全く講義に出なかったわけではないですが。理系でしたので実験は嫌でも出席しないといけないし。頭の回転も極端に悪くなり、何事に対してもやる気が出ない、意欲が出ない、集中できないという状態になります。

 

そんな状態が続くので時間をとばしまして最近、現在。

双極性障害に使える薬の選択肢がずいぶん増えました。ほとんどリーマスしかなかったころに比べるといまはその点治療は進歩したと思います。しかし、決定的に効く薬というものはまだありません。特効薬はないのです。ひとによって同じ薬でも効いたり効かなかったりする、そんな病気です。一般に心理療法みたいなものはあまり効果がないと言われています。脳の病気だからです。しかしストレスが関係しているのも明らかで、そういったものはなるべく避けるのが原則です。

 

現在10種類を超える薬で治療しています。多いようですが最低限なのです。最近、精神疾患を単剤で治療しようという動きがあるようですが、無茶もいいところです。どこの臨床の素人が言い出したことなのでしょうね。

 

この病気、必ずしも悪い点のみではないようです。一説では芸術性の高さと関連しているであるとか、人当たりの良い性格と関連しているであるとか、そういうことも言われているようです。古くからある病気です。悪いことしかない病気なら淘汰されていておかしくないはずです。それが現代においても存在するというのはなにか有利に働く面があるからではないかと言われています。

Wikipediaによると、多くの芸術家・作家が双極性障害だったと言われています。まあこの手の話はこの程度にしておきましょう。

 

生活に大変な支障の出る病気であることは間違いありません。少なくとも私の場合はそうです。現在も手探りでの治療が続いています。いったんうつ状態に落ちればなかなか這い上がれない病気です。躁は軽めだし抑え込む薬もあるので本人はうつほど大した問題だとは思っていません。

 

躁はうつの逆というのがざっくりした説明ですが、主観的には単純にそうも言いきれないところが難しいところです。

 

さてこれから先も、完治することのない爆弾を抱えて生きていかなければならないわけですが、昔ほど悲観はしていません。なってしまったものはしかたがないし、なにをどうしても治らないのだからこれも自分の一部として受け入れるしかないのです。尊敬する偉大な物理学者のボルツマンも双極性障害だったようだし…いろいろあり自殺してしまいましたが。

 

双極性障害自体に関する一般的な説明が薄くなってしまいましたが、これに関してはネットにもたくさん情報がありますので、できれば調べていただいて一人でも多くの方に理解してもらいたいのが本音です。

 

治らない以上、一番の救いは周囲の理解です。医師はもちろん、家族は理解があります。ありがたいことです。友人も半ば理解はしてくれているようで、これもありがたいです。ただ、なかなか他人は実感として理解しがたいようですね。それは感じます。

 

最低限のことを書こうと思いましたが長くなりました。別の視点からも書きたいことはあるのですが、今回の記事はこのあたりで締めくくりたいと思います。